本書を読み、私の中で最も印象に残ったのは、「知的労働者ほど生成AIの影響を受ける」という主張でした。これまでの社会では、学歴や知識、スキルを積み上げていけば、ある程度の安定が得られるという共通認識がありました。実際、私自身もその価値観のもとで時間と労力を投資し、人生を設計してきたつもりです。しかし、生成AIの急速な進化は、その前提を大きく揺るがします。まさに、これまで「安泰」とされていた知的労働こそが自動化の対象となるという現実に、少なからずショックを受けました。
特に印象的だったのは、野口氏が「社会全体の生産性は向上するが、その恩恵は平等に分配されず、むしろ格差が広がる」と述べていた点です。歴史を振り返れば、機械化によって農業従事者が激減したように、生成AIもまた、文章、コード、画像、映像など、デジタルコンテンツの生産に関わる労働者の必要数を大きく減らすかもしれません。これにより、情報産業の構造そのものが根底から変わっていく可能性を強く感じました。
一方で、私自身の中には、この変化を悲観するだけでなく、どのように適応するかを前向きに考えたいという気持ちも芽生えました。たとえば、「非デジタル」のマネタイズポイントに目を向けるという発想です。生成AIがもたらす変化の中で、コンテンツを「作る側」ではなく「活用する側」になれば、その恩恵を受け取ることができるはずです。これは、リアルなサービスや体験、あるいは人との接点が重視される領域にヒントがあるのではないかと考えています。
また、ベーシックインカムに対する著者の否定的な見解にも触れておきたいと思います。野口氏は「既に生活保護制度があるのに、なぜ新たな制度を作る必要があるのか」という疑問と、「働いて得た範囲で生きる」という社会の価値観を重視して反対しています。この意見には一理あるものの、私はもう少し柔軟に考えるべきではないかと感じました。生活保護とベーシックインカムでは制度の設計思想が根本的に異なります。特に、生成AIによって大量の人々が労働市場から押し出されるような未来を想定するなら、より普遍的で汎用的な所得保障の仕組みを議論することには意味があると考えます。
総じて、生成AIはテクノロジーの話にとどまらず、私たち一人ひとりの生き方や価値観、社会制度にまで問いを突きつける革命であると感じました。この変化にどう向き合うか、何を軸にして生きるのか。改めて、人生設計を根本から見直すタイミングに来ているのかもしれません。
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